直木賞作家、藤沢周平が「蝉しぐれ」や「三屋清左衛門残日録」などのテレビ・映画化でブレークする、だいぶ前だったと思いますが、本屋で偶然、手にしたのが「市塵(しじん)」でした。
徳川6代将軍 家宣の侍講として幕政を補佐した、儒学者でもある新井白石の政治家としての“苦闘“の日々をたんたんと描いた地味な小説でした。
十数年前、与野市(現さいたま市)から白岡ニュータウンに移り住んだとき、この地が白石の知行地だったことは全く知りませんでした。終戦まで命日には供養が続けられていたこと、「殿様堀」といわれる溝渠のあとがまだ残されていることなども知りました。
自伝「折りたく柴の記」や独特の史観の「読史余論」など著作に触れる機会もありました。300年前の時間と空間とのつながりが日々広がっている感じで、なにか天の配剤に恵まれたような気がします。「歴史散策クラブ」や「囲碁同好会」、いろいろな催しでの悠友会の皆さんとの交わりもその延長にあるようです。大切にしていきたい。
(中田 章)